井上大輝法律事務所

【交通事故】事故に遭ったときにまずしておくこと(1)警察に診断書を提出すべきか?

2019年05月10日コラム

お世話になっております。弁護士の井上大輝です。

本格的なコラムの1回目は、得意にしてきた交通事故対応に関するお話にしたいと思います。

「警察署に診断書を提出して、人身事故として扱って頂いた方がいいでしょうか。事故の相手さんからは、物損扱いにしてほしいと言われているのですが・・・」

というお話は、事故に遭われ、お医者様に頸椎捻挫や腰椎捻挫、打撲との診断を受けてすぐの段階のお客様からよくお伺いします。

「加害者にお願いされて根負けしてしまい、物損扱いにしてしまったので、もう治療には通えないのではないか」

というお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

結論、物損扱いの事故でも、事故直後から継続的に(又は医師の指示する定期的なペースで)治療に通うことにしていれば、相当な期間の治療費や慰謝料を認めて頂けることが多いです。そして、治療期間や慰謝料額は、主に事故の大きさや症状の出方、残ってしまう症状(後遺症)の程度によって決まってきますので、物損扱いか人損扱いか、という話だけで左右されることは少ない、というのが実感です。

また、事故の相手さんが運転免許の必要な仕事をしているときに、(たとえ1日でも)免許の効力が停止されるのが生活上つらい、ということもあります。そこで、物損扱いに応じることによって、事故の加害者に代わって示談交渉をする立場である保険会社との間の話し合いがうまくいく、という場合もあります。

なので、すでに物損扱いにしてしまったという場合には、それでも十分な賠償額を求めて交渉・請求することはできますので、ひとまずご安心頂ければ幸いです。後遺症の認定や、相当な治療期間の認定を得る際にも、適切なペースで適切な治療を受け、適切な検査を受けた結果が記録されていることの方がむしろ大事、というのが、弁護士としての感触です。

ただし・・・事故に遭ってから1週間くらいまでの時期にご相談を頂いた際には、僕は「人身扱いの方が良いです」と答えるようにしています。

人身扱いの場合、怪我の大きさにかかわらず、物損扱いの場合よりも詳細な事故状況の記録(実況見分図)が作成されます。また、事故加害者が罰金刑以上になっている場合であれば、警察や検事らが作成した多数の資料・刑事裁判の結果に関する資料も入手可能なことが多いです。後々、事故の様子について当事者双方の記憶が違っていたり、過失割合をどう決めるかが問題になった際に、手掛かりとなる実況見分図などのあるなしの差は、正直大きいです。

最近は、ドライブレコーダーを取り付けている車も増えてきましたので、ある程度まで真相を解明しやすくなりました。しかしながら、実況見分図には相当な情報、特に警察側の見立てや事故態様の解析結果などが詰まっています。それは、車両を運転しているときの過失によって人を傷つける(死なせてしまう)ことが「過失運転致傷(致死)」「危険運転致傷(致死)」(車の場合)あるいは「重過失致傷(致死)」(自転車の場合)という罪にあたりうるからです。

したがって、例え加害者の方から直接謝罪があり、「頼むから物損扱いにしてほしい」と言われたとしても、被害者側としては後々のことがあるので、人身扱いにしておいた方が良い場合が多い、ということになります。

このような理由から、物損扱いの事故で加害者の自賠責保険に治療費や慰謝料、休業補償を請求する際の書類には、加害者保険会社は人身事故届を出すことができることの案内をしましたか?、という内容を書く欄があります。もし、相手方保険会社から特に案内なく物損事故扱いで話が進みそうになってしまいそうなときは、書類をすぐに返送せず、まずはご相談いただければ幸いです。